60. 茗荷の効果
The Effect of Ginger
英語で小噺
English Rakugo Short Stories
by 鹿鳴家 英楽 (Kanariya Eiraku)
和訳
旅人がある宿に泊まりました。
客の行李(こうり:荷物)にたくさんのお金が入っていることに宿の亭主が気付きました。
亭主の女房がいうことには、
女房: 明日の朝発つときに、行李を忘れるといいのに。
亭主: いい考えがある。
茗荷を食べると物忘れをするというから、
今日の夕飯に茗荷をたくさん出してやってくれ。
旅人はその夜、たくさんの茗荷を食べました。
茗荷を入れた汁、魚、肉、天ぷら、漬けもの。
翌朝、旅人は宿を発ちました。
亭主: 行李は忘れていったかい?
女房: いいえ。
亭主: それは残念じゃった。何か忘れて行ったものはなかったかい?
女房: 宿代を払うのを忘れていきました。
Script
A traveler stayed at an inn.
The innkeeper found that he had a lot of money in his bag.
The wife of the innkeeper said,
W: I wish he would forget to take his bag when he leaves.
I: I have a good idea.
They say eating a lot of ginger makes people forgetful.
So serve him a lot of ginger for today’s dinner.
The traveler ate a lot of ginger that night;
ginger soup, ginger fish, ginger steak, ginger tempura and ginger pickles.
The next morning, he left the inn.
I: Did he forget to take his bag?
W: No, he didn’t.
I: That’s too bad. Didn’t he forget anything?
W: Yes, he did. He forgot to pay the bill.
ポイント
落語「茗荷宿」の触りです。
茗荷は英和辞典にはJapanese gingerとありますが、ここでは単にgingerとしました。
I wishは仮定法をとるので、その後の節が過去形になり、この場合、willがwouldになっています。
茗荷を食べると物を忘れるという迷信は、仏教から来ています。
お釈迦様の弟子である周利槃特(しゅりはんどく)は、物忘れをする名人で、
自分の名前も覚えられない人でした。
その槃特が亡くなり、墓から生えたのが茗荷であったから、
茗荷を食べると物忘れをすると言う俗説が生まれたのだそうです。